矯正治療と組織変化 | 矯正歯科コラム

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矯正治療と組織変化 2.歯の移動と組織変化 -10

3.顎の移動と組織変化

上顎歯列弓の拡大

現在、上顎歯列弓の拡大は、臨床的には2種の用途に大別されています。すなわちslow expansion とrapidexpansionと呼ばれるものがあります。

可撤式装置によるexpansionの場合には、歯と歯槽骨との間に主な変化が生じます。
固定式装置によるrapid expansion (拡大は1目に2×1/4回転程度)の場合には,正中口蓋縫合の離開と、この間際の化骨を主体とした上顎骨自体の拡大が期待されます。

拡大による縫合部の変化と、その後の経過についての実験結果を総合すると、一般に縫合部の間隙は、線維の牽引と離断および全面にわたっての内出血などの外傷性変化によって始まり保定5日目ごろには、すでに修復過程として、離開壁面に新生骨の添加が開始されます。

この部の化骨は針状骨梁の形成と、その増大および同時に進行する離開壁面にわたる骨の添加によって最終的な治療を迎えます(図13-22)。

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側方歯群では、圧迫側の骨の吸収と牽引側の線維の伸展で始まり、6週後では、骨の吸収や添加も進み安定した像となります。
拡大の影響を及ぼす範囲については、Starnbachは側方拡大の際に、鼻縫合、頬骨上顎縫合、頬骨側頭縫合の変化を認めていますが、小杉はこれに加えて切歯縫合、横口蓋縫合、切歯管、口蓋面あるいは鼻腔底、鼻中隔など、さらに蝶形骨、後頭骨軟骨縫合が開大されたとし、これは拡大中に上顎が下前方に移動するということと相関があるとしています。

0shimaによると、固定式装置によるrapid expansion の揚合には固定歯は傾斜し、slow
expansionの場合には歯体移動するから、初期混合歯列弓を拡大する場合、rapid expansion  よりslow expansionの方が好ましいと述べています。

歯やあごに力を加えることによって、周囲の組織がどのような変化を起こして歯が動くのかを見てきました。
次に、歯やあごの移動を行うための抵抗源についてご説明します。

2014年12月19日


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3.顎の移動と組織変化

顎の近遠心関係を改善するための矯正装置としては、顎間固定装置や顎外固定装置、機能的矯正装置などがあります。それらは症例に応じて用いられていますが、どのような変化が現れて顎の移動が行われているか、2、3の動物実験でのデータを述べます。

顎間固定法を応用した下顎遠心移動の場合Breitnerは、関節結節の骨の添加や後関節突起前壁の骨吸収、後壁の骨添加、下顎頭前壁の骨添加、後壁の骨吸収がみられたと述べています。一方、太田は関節結節に骨の添加が認められなかったと述べています。

勝間が述べている内容は以下の通りです。関節窩については、関節結節部の骨の吸収、後関節突起前壁の骨吸収、後壁の漸加がみられ、関節窩天蓋部から後方にかけて波トウ状の変形がみられる。そして関節円板については、関節窩、下顎頭の波トウ状の変形に一致した像を呈し、外力が最も加わった部分は非常に薄くなって、cell free の像を呈していた。

下顎頭については、上記の関節窩の変形に一致したトウ状の位を呈し、下顎頭、頭頂部付近で後上方への増殖、下顎頭後壁骨の吸収、下顎頭後縁部での後方への彎曲を認めています。なお彼は、年齢的には成獣になるにつれて変化がおそくなると述べています。

チンキャップによる下顎遠心移動は、松井が家兎で実験しました。彼は下顎骨の後方転位と下顎角の狭少を認めたほか、下顎体部の前方への成長発育は著しく抑制され、下顎枝部においてもその後縁より前縁部にかけて骨添加量は減少していたが、下顎体部下縁および下顎角部後縁より外側にかけて、骨皮質への骨添加量は不規則であるが増大し、下顎体部は全体として太く短く著しい変形を認めています。

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Haupl、Psanskyたちは、成然したサルに筋の機能力を応用した機能的顎矯正法を用いて実験し、関節窩、下顎骨の関節突起の遠心部にはいずれも骨の新生を認め、そのほか上行枝、下顎角部などの筋付着部にもまた明瞭な骨の新生添加を認めています。また、LiebとSchlagbauerは、乳歯列期の赤毛ザルを用い、上下顎の咬合状態に変化をきたすような矯正装置として、図13-19に示したようなアクチバートル(A,B)、顎間固定(C)、Head-gear(D)、下顎を牽引する装置(E)、下顎骨を前突させる装置(F)を装着し、骨のremodelingの状態をfernrontgen写真とtetracyclineによる生体染色法を用いて調べました。

その結果、Breitner、Derichsweiler、Haupl、Psanskyらのサルを用いた実験結果と異なって、骨格の形態変化や測定可能な臨床的変化をおこしたと報告しています。すなわち、片側に(左側)class Ⅱ elastic を6週間位用した顎間固定法の実験では、下顎骨が右側に移動し、左側は正常咬合から下顎近心咬合となり、正中線の偏位をおこし、X線的には中顔面および上顎骨に左右の非対称位が現れたが、頬骨弓までにはその影響は及ばず、歯列弓は歯胚を含めて位置的変化をおこしており、左右の下顎骨のX線写真上では、歯列弓の後端の形態が左側の方が大きくなっています。これは左側の歯列が近心転位をおこし、第1大臼歯と第2大臼歯との間にspaceを生じたためであるとしています。

下顎上行枝では、下顎頸部と頭部に骨増殖が認められています(図13-20)。このことによって外力が下顎の成長にどのように影響を及ぼすかがわかります。

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一方、下顎骨を顎外力により近心に牽引する実験の場合、昼間6時間と全夜間にわたり装置を作用させたのに、6週目では何の変化もありませんでした。しかし、8~12週目では、咬合状態に変化を生じたため、顎関節部の生体染色の状況より判定すると、下顎骨の関節突起の遠心頭蓋線における骨成長量は対照群の3倍でした(図13-21 C,D)。

このことは実験群と対照群との発育が異なっていることを示しています。対照動物における生理的な成長によって、関節頭の辺縁と骨増殖線まで一定距離をおいて染まっていますが、実験動物では、とくに関節頭の後ろ、関節窩の遠心頭蓋面において骨添加が多く認められました(図13-21 E,F)。

なお、彼らは、矯正治療による下顎骨基底部の変化は、量的には歯槽突起部に比べてはるp244_01かに少ないものの、成長過程のおこる場所に成長方向と一致して観察されたと述べています。

このように、動物に矯正装置を実際に用いることで、骨や歯の移動についての詳細が明らかになりました。

2014年12月17日


2.歯の移動と組織変化

3.歯根吸収(Root resorption)

最近の矯正装置の構造や治療過程の進歩を考えると、矯正装置によってもたらされる副作用については気にする必要はないと思われますが、その中でも気をつけなければならないのは歯根尖が異常をおこすことです。このことはKetchamによって指摘されましたが、MarshalやBecksによって、同じような吸収が矯正治療以外の原因(栄養、内分泌疾患)でも起こり得ることが発見されました。つまり、矯正が必ずしも原因であるとは限らないということです。しかし、強い力をかけて歯牙移動をさせることが大きな原因の一つであることは事実です。

一般に、矯正治療をするにあたって歯の機能と安全性にとって有害であるとみなされるのは、広範な型の歯根吸収です(図13-17)。

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一方、小さな吸収はあまり気に留める必要はありません。これらはすぐに細胞性セメント質によって修復されて歯根膜縁組が新しいセメント質層に取り込まれることで、歯は正常な機能を保ちます(図13-18)。

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根未完成歯に矯正力を作用させた場合には、根尖の薄い象牙質に破折、吸収が認められたという報告と、遂に矯正力を合法的に加えた場合には、歯根完成後よりも歯根形成途上にある歯を移動させた方が望ましいという報告があります。これらのうちのどちらが歯の移動に適しているか、未だ結論は出ていません。また、矯正学的な歯の移動は、歯が根管治療されたということによって影響されません。

 

2014年12月15日


2.歯の移動と組織変化

2.矯正力の特性と組織変化との関係

4)力の作用方向(Direction force)

歯の移動には、力の作用方向によって、近遠心方向、唇(頬)舌方向、歯の萌出方向(挺出)、この逆の方向(圧下)、歯軸に沿った回転の5種類があります。

(1)近遠心方向への移動(Mesial or distal movement)
力の方向に応じて、近心あるいは遠心側の歯根膜に圧迫帯あるいは牽引帯ができ、歯槽壁の吸収と添加によって、歯は近心あるいは遠心へ歯槽弓に沿って移動します。

(2)唇(頬)舌方向への移動(Labial,buccal or lingual movement)
原理的には、近遠心方向への移動と同じですが、歯槽突起の唇(頬)舌面には緻密な皮質があって、歯根が移動してこれに当ると根の吸収がおこってくるといわれています。なお、唇側あるいは舌側方向への傾斜移動は、「後もどり」をおこしやすく、歯は徐々に牽引側にもどっていきます。これに対処するには、正しい位置に必要と思われる距離以上に、歯を傾斜させて線維束を過度に延ばすことによって、ある程度補償させることができます。

(3)挺 出(Elongation)
歯が歯槽から抜け出る方向に引っぱられると歯槽底は牽引帯となり、ここに骨添加が生じます。このとき、わずかですが歯槽頂にも新生骨の添加がみられます(図13-14)。

p239_01 (4)圧 下(Depression)
挺出の場合と逆に歯を軸方向に圧下する場合には、歯根膜線維の斜走線維に打ち勝ち、intermediate plexus をほどかなければならないために、実際には強い力が必要になります。さいわいに歯根は円錐状をしているため、根尖へのfull force を防いでいますが、挺出の場合と逆に歯槽底がとくに強い圧迫帯となって、ここの歯槽骨が吸収します。この際、根尖の吸収がおこりやすく、歯槽縁にも吸収が生じます(図13-15)。

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(5)回 転(Rotation)
単根歯の場合でも、歯根の横断面は円形ではないために、回転により歯根膜には部分的に圧迫帯と牽引帯が生じ、ここに骨の吸収と添加が生じます。このほかにも、歯根膜内での変化以外に歯肉の線維も歯の回転方向に引っ張られ、その状態が歯根膜線維の緊張状態が消失します(約1ヵ月したのちにも残存することが知られています)。これが回転歯を逆に回転させる(後もどり)ことに関連しているとされています。

2014年12月13日


2.歯の移動と組織変化

2.矯正力の特性と組織変化との関係

3)傾斜移動(Tipping movement)と歯体移動(Bodily movement)

歯冠に近遠心あるいは頬舌方向の力を加えると、一般に歯根の根尖側1/3を支点として歯は傾斜します。(この欠点は、矯正力がより弱ければ根尖に近くなり、強ければ歯頸部に近くなります)。このような移動様式を傾斜移動といいます。この場合、移動方向の歯頸部歯根膜と、反対方向の根尖部歯根膜に圧迫帯が生じ、これとちょうど逆の部位に牽引帯が生じます(図13-11)。

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一方、歯体移動(bodily movement)とは、歯根が歯槽の内側骨面に平行に移動することを意味します。この場合、移動方向の歯根膜には歯根全長にわたる圧迫帯ができ、その反対側の歯根膜には、同じように全長にわたる牽引帯ができます。しかし臨床的にみたときに歯体移動にもかかわらず、組織学的には、歯はその新しい位置に向かって、「wigglingあるいは、jiggling」によってbodilyに動くだろう、すなわち、同一面上に吸収と添加の両方が発生しているということになります。

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傾斜移動の場合には、弱い力でも移動方向の歯頸部圧迫帯に部分的に強い力がかかりやすいため、歯根膜に硝子様変性ができやすいという特性があります。歯体移動の場合には、歯根の全長にわたって力が分布するために全体としての力は弱められます。

臨床的には、弱い力で容易に歯を動かすことができるという理由で傾斜移動を推す歯科医師と、逆に強い力を加えても歯根に与える為害作用が少ないという理由で歯体移動を推す歯科医師とがいます。

このように、効率よく歯を動かすために歯科医師による様々な研究がなされています。

2014年12月11日



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