歯科矯正全般

矯正が必要な噛み合わせの悪さとは

矯正が必要な噛み合わせの悪さのまま過ごしていると、歯やお口に影響があるのみではなく、場合によっては全身の不調につながることがあります。歯の噛み合わせで、なぜそのような不調につながるのでしょうか。

噛み合わせが悪いと起きる不調

噛み合わせが悪いと起きやすいのは、顎関節への負担、歯や歯茎の摩耗、見た目や発音などへの問題です。順を追って主な症状とリスクをまとめます。

1. 顎関節への負担

  • 顎の開閉時にカクカク音が鳴る
  • 口が開きにくくなる
  • 顎が痛い・疲れる
  • 関節に炎症が起きることもある

2. 歯や歯ぐきへの影響

  • 特定の歯に過剰な力がかかり歯がすり減る
  • 歯が欠けやすくなる
  • 過剰な力がかかる部分の歯周病の進行が早まる
  • 詰め物や被せ物が外れやすい

3. 見た目への悪影響

    • 顔の左右差や歪みが生じやすくなる
    • 口元のバランスが崩れる

4. 発音や飲み込みの問題

  • 舌の動きが制限され、発音が不明瞭になる
  • 食べ物がうまく咀嚼できず、嚥下(えんげ)障害に繋がる

5. 口腔内の乾燥や口臭を引き起こしやすい

  • 噛む動作が不十分になり、唾液の量が減る
  • 口腔内が乾燥しやすく、細菌が増殖しやすい環境になる
  • 細菌増殖し口臭を引き起こしやすく、会話に影響が出る

6. 肩こり・頭痛・姿勢の悪化

  • ズレから咬筋(顎を動かす筋肉)や首、肩の筋肉の緊張を引き起こす
  • 顎を正しく動かせず緊張状態のままでは、血行が悪くなる
  • 頭痛や肩こり、背中の痛み、慢性的な疲労感などが出ることがある

7. 消化器官への影響

  • 食べ物を十分に咀嚼できないことで、胃腸に負担がかかる
  • 消化不良を起こしやすくなる

早めの相談と治療が重要
噛み合わせの問題は、成長や加齢に伴って悪化する可能性があるため、違和感がある場合は早めに歯科医院で相談することをおすすめします。

矯正が必要な噛み合わせとは

矯正が必要とされる悪い噛み合わせを不正咬合と言います。不正咬合には種類がありますので、ご紹介します。

名称 特徴 原因 リスク
上顎前突 上の前歯や上顎が前方に突出する出っ歯 遺伝、指しゃぶり、口呼吸 唇が閉じにくい、歯の損傷、見た目のコンプレックス
下顎前突 下の前歯が上の前歯より前に出た受け口 遺伝 咀嚼・発音困難、あごへの負担
開咬 前歯が噛み合わず、常にすき間がある 指しゃぶり、舌癖、口呼吸 発音障害、前歯で噛めない
過蓋咬合 上の前歯が下の前歯に深くかぶさる 骨格の遺伝、顎と歯のバランス 下の歯や歯茎へのダメージ、顎関節症
叢生 歯並びがガタガタ 顎が小さい、歯が大きい、乳歯の早期喪失 虫歯や歯周病のリスク、見た目の問題
空隙歯列 歯と歯の間にすき間があるすきっ歯 歯の本数不足、舌癖、上唇小帯異常 見た目の問題、発音への影響
交叉咬合 上下の歯が横にずれて噛み合う 顎の左右差、乳歯の早期喪失 顔の歪み、あごの痛み、成長への影響

正しい噛み合わせとは?

顎、奥歯、前歯、歯の中心など細かいですが、これらの条件が合えば正しい噛み合わせと言えます。ご自身の歯並びが本当に正しい噛み合わせかどうか、チェックしてみましょう。一つでもチェックができない項目があるならば、正しい噛み合わせではない可能性があります。

チェックリスト








具体的な数値はある? 

上顎の前歯が下顎の前歯を1~2mm程度覆っている状態が正しい位置とされます。横から見た水平の重なりをオーバージェット、正面から見た垂直の重なりをオーバーバイトと呼びます。どちらも2〜3mm以内であることが理想的な噛み合わせで正しい位置であると言えるでしょう。

前歯の中心線の一致も大切 

前歯の中心線のことを正中(せいちゅう)線と呼びますが、それにについても重要なポイントがあります。上下の前歯の正中線が一致していれば、顔全体のバランスが整い、機能的にも理想的な状態となります。

割り箸を使ったチェック方法もあり

割り箸を使ったセルフチェックは、噛み合わせの左右バランスを確認しやすい簡単な方法です。

  1. 割り箸の中央部分に印をつけ、前歯で軽く噛む
  2. 上下の前歯の中心線と割り箸の印が一致するかどうかを確認
  3. 今度は奥歯で割り箸を噛み、ぐらつきや片側だけ強く当たる感覚がないか確認
  4. 安定しなければ噛み合わせが正しい位置からずれている可能性が高い

噛み合わせが悪い歯並びに対する治療法とは

矯正治療や咬合調整、マウスピース治療などで改善を図れることがあります。治療法についてご紹介します。

  • 表側矯正(ワイヤー矯正)
  • 裏側矯正(ワイヤー矯正)
  • マウスピース矯正(インビザライン、スマーティーなど)

✓ 表側矯正

  • 歯の表面にブラケットとワイヤーを装着する一般的な方法
  • 中〜重度の不正咬合にも対応
  • 力の調整が細かく可能で、複雑な移動にも有効
  • デメリット:見た目で矯正治療中と分かる程、装置が目立つ

✓ 裏側矯正(リンガル矯正)

  • 歯の裏側にブラケットとワイヤーを装着するため、表側から見えず目立たない
  • 重度の不正咬合にも対応可能
  • デメリット:発音しにくさと違和感があり、費用が高い

✓ マウスピース矯正(インビザラインやスマーティーなど)

  • 透明なマウスピースのため自分で取り外し可能
  • 軽度~中度の不正咬合に適している
  • デメリット:重度の症例には不向きなことがあり、自己管理が必要

希望通りの治療にならないこともある?

患者さんご自身のご希望がマウスピース矯正であっても、患者さんの状態や治療経過によってはワイヤー矯正を併用する治療を行うことがあります。

奥歯の倒れ込み・歯が埋まっている

抜歯後のスペースに奥歯が倒れ込んだり、露出部分が少なく歯肉に歯が埋まっているというケースでは、インビザラインのみでの保持が難しいです。ワイヤー矯正で歯を正しい位置に持ち上げる必要があります。

小臼歯の大きなねじれ

円形のような小臼歯がねじれをおこしている場合、マウスピースでは保持が難しいです。ワイヤー矯正で逆の方向へ回転させる必要があります。

複雑な歯の移動

歯の位置や角度の調整などインビザラインのみでは困難なケースにおいて、ワイヤー矯正を併用すると円滑に治療を進めることができます。

治療計画のリカバリー

歯が計画通りに動かない場合、ワイヤー矯正を一時的に取り入れることで、治療を効果的にすることができます。

比較してみよう

項目 表側矯正 裏側矯正 マウスピース矯正
見た目 × 目立つ ◎ 目立たない ◎ ほぼ目立たない
対応できる症例 ◎ 幅広く対応 ◎ 幅広く対応 △ 軽度~中度まで
違和感・発音 ○ 少しあり △ 強く出やすい ◎ 少ない
費用 ○ 一般的 △ 高め ○ やや高め
取り外し × できない × できない ◎ 可能

 

年齢による適応の違い
小児期 拡大装置、ヘッドギア、早期矯正
思春期~成人 ワイヤー矯正、マウスピース矯正
骨格性が原因の成人 矯正+外科手術の併用

どの方法が適しているかは、歯並びや骨格の状態、年齢、希望の治療期間や費用によって異なります。信頼できる矯正歯科でカウンセリング、精密検査(CTやセファロなど)を受けたうえで、最適な治療方針を決めることをおすすめします。

まとめ

これらの噛み合わせの異常は、咀嚼機能の低下、見た目の悩み、虫歯・歯周病のリスク増加、発音障害や顎関節症などを引き起こす可能性があります。矯正治療はこれらの問題を改善し、長期的な口腔健康につながります。気になる症状がある方は、早めの歯科相談をおすすめします。

この記事の監修者

医療法人真摯会
理事長 歯科医師 総院長
松本正洋
クローバー歯科、まつもと歯科 総院長。国立長崎大学歯学部卒業。歯科医師免許取得後、医療法人真摯会設立。矯正歯科の認定多数。日本抗加齢医学会 認定医。

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