部分矯正

部分矯正はおすすめしないという意見がある理由とは?知っておきたいデメリットと注意点

部分矯正はおすすめしないという意見がある理由とは?

大阪矯正歯科グループ 歯科医師 松本 正洋

なぜ「部分矯正はおすすめしない」という意見があるのか?

最近よく耳にする「部分矯正」。短期間で費用も比較的安く、気になる前歯だけを治せるということで人気があります。でも一方で、歯科医師の中には「おすすめしない」と断言する人も少なくありません。その理由は、部分矯正が「本当に治すべき問題を見逃してしまう」可能性があるからです。

部分矯正が引き起こす可能性のあるトラブル

歯のトラブル

部分矯正は気になる前歯など一部の歯だけを動かす治療法ですが、「歯並びの一部だけを整える」という性質上、お口全体のバランスを崩してしまうリスクがあるんです。ここでは、その主なトラブルをもう少し詳しく解説していきます。

かみ合わせがズレてしまうリスク

部分矯正では、上下のかみ合わせをトータルで整えることができないため、以下のようなズレが起こる可能性があります。

前歯の位置だけを整えても、奥歯のかみ合わせが不安定になる

噛む力のバランスが崩れ、顎関節症のリスクが上がる

無意識に片側だけで噛む癖がつき、歯や顎の筋肉に負担がかかる

その結果、見た目は良くなったように見えても、噛みにくさや違和感を抱える患者さんが増えてしまうのです。

後戻りが起こりやすい

部分矯正は歯列の一部しか動かさないため、支えが不十分になりがちです。以下のような後戻りのリスクがあります。

噛み合わせ全体の安定がないため、動かした歯が元の位置に戻ろうとする

リテーナー(保定装置)を適切に使用しないと後戻りしやすい

舌の癖や噛み癖など、生活習慣が影響しやすい

特に、全体の咬合バランスを無視して矯正した場合、リテーナーをしていても戻ってしまうケースも見られます。

本質的な問題を見逃してしまう

部分矯正では、以下のような深い問題が見落とされやすくなります。

顎のズレや歯の傾きがそのままになっている

見えない部分に不正咬合が残っていて、他の歯に影響が出る

歯垢がたまりやすい位置が変わり、虫歯・歯周病リスクが上がる

たとえば、「前歯の見た目だけ治したけど、奥歯がずれて虫歯ができやすくなった」なんてことも。

将来的な再治療の可能性

見た目だけの改善を優先して部分矯正を受けた結果、こんなことが起こることも:

再び歯並びが乱れて、今度は全体矯正が必要になる

詰め物や被せ物を作り直す必要が出てくる

不正咬合が悪化して、歯ぎしりや顎関節症に悩まされる

部分矯正で一時的に良くなったように見えても、長期的には余計な負担や費用がかかることがあるのが現実です。

こうしたトラブルが生じる背景には、「部分矯正では対応しきれないケースがある」ことが挙げられます。見た目を整えるだけでは不十分なことも多く、むしろ口全体の健康に悪影響を与える場合もあります。

部分矯正は「手軽」「安い」「短期間」で人気がありますが、その裏には見落としがちなトラブルのリスクが潜んでいます。とくに、噛み合わせ全体の調和が取れていないまま治療を進めることの危険性は、軽視できません。

矯正治療を成功させるには、「今見えている部分」だけでなく、「口腔全体の健康と機能」を考慮することが何より大切です。気になる部分だけを治したい気持ちもよくわかりますが、焦らず、しっかり診断とカウンセリングを受けることがトラブル回避の第一歩になります。

https://www.osaka-kyousei.com/column/2877.html

実際に起こりやすい失敗例とその背景

トラブル

部分矯正は「気になるところだけをサクッと治せる」と思われがちだけど、部分的にしか歯を動かさないがゆえの落とし穴があるんです。ここでは、患者さんが実際に経験しやすいトラブル例と、その背景にあるメカニズムを詳しく解説します。

【失敗例1】前歯の見た目は整ったのに奥歯がうまく噛めない

▶ 症状

「前歯のがたつきが治って嬉しかったけど、なぜか食事中に噛みにくくなった」「顎に違和感が出てきた」などの訴えが出るケース。

▶ 背景

部分矯正では、上下の前歯の位置関係だけを改善しても、奥歯とのかみ合わせが狂ってしまうことがあるんです。前歯が前に出すぎたり内側に入りすぎたりすると、奥歯の咬合高径(噛む高さ)がズレて、顎に余計な力がかかってしまいます。

▶ 結果

顎関節症を引き起こしたり、食事のたびに片側で噛むクセがついて筋肉や顎に負担がかかるという、まさかの悪循環に。

【失敗例2】治療後にすぐ後戻りした

▶ 症状

「きれいになった歯並びが数ヶ月で戻ってしまった…」「後戻り防止の装置を忘れていたら前の状態に戻った」

▶ 背景

部分矯正は歯の動きが速い反面、安定性が低いのが特徴です。もともとのかみ合わせのバランスを整えていないまま、前歯だけを動かしてしまうと、歯は元の位置に戻ろうとする「生体の力」が強く働きます。

また、「矯正が終わったらリテーナー(保定装置)は気にしなくていい」と思い込んでしまい、装着を怠る患者さんも多いのが実情です。

▶ 結果

見た目が整った喜びもつかの間、再治療が必要になることもあり、費用も時間も二重にかかる可能性があります。

【失敗例3】前歯はキレイなのに、かえって口元が不自然に見える

▶ 症状

「前歯が揃ったけど、笑うと口元が突き出して見える」「なんか顔のバランスが崩れた気がする…」

▶ 背景

部分矯正では、顎や顔全体の骨格とのバランスを考慮できないことが多いため、前歯だけを引っ込めたり揃えたりしてしまうと、唇や口元のラインが不自然になるケースがあります。

見た目に関しては患者さんの満足度が非常に重要ですが、矯正が「口元の自然な美しさ」にまで配慮されていないと、逆にコンプレックスが増してしまうなんてことも…。

【失敗例4】歯並びは良くなったけどむし歯・歯周病が増えた

▶ 症状

「矯正が終わったあとに歯ぐきが腫れた」「歯磨きしにくくなってむし歯になった」

▶ 背景

部分矯正では、歯の重なりだけを整えるためにスペースを作る処置(IPRや歯の削合)が行われることもあります。
これにより、歯と歯の隙間が変化したり、歯磨きがしにくい状態になると、歯垢のたまりやすい環境になってしまうこともあるんです。

また、歯ぐきの状態(歯周病の有無)をきちんと確認せずに矯正を始めると、歯を動かす力で炎症が悪化することも。

見た目だけではなく「機能」も大事!

部分矯正は「とりあえず見た目だけ整えたい」という希望には応えやすいですが、実際には次のような落とし穴があります。

  1. 見えない部分で起こる機能的な不具合
  2. 矯正後の長期的な安定性の低さ
  3. 口元全体のバランスや健康を無視した治療

そのため、部分矯正を検討する際は、「一時的にキレイになればOK」ではなく、5年後・10年後も満足できるかどうかを基準にすることが大切です。

https://www.osaka-kyousei.com/column/1274.html

全体矯正との違いと選び方のポイント

インビザライン

部分矯正と全体矯正の違いを理解したうえで、自分に合った治療を選ぶことが大切です。

比較項目 部分矯正 全体矯正
対象 前歯など一部 全体の歯列
費用 安価 高め
期間 短い(数ヶ月〜) 長い(1〜3年)
効果 限定的 全体的な改善
後戻り 起こりやすい 保定次第で安定

選び方のポイント

不正咬合や顎のズレがある人は、全体矯正を検討すべき

見た目の一部だけが気になる場合でも、かみ合わせに影響するか確認が必要

歯科医師の十分な診断と説明を受けてから判断すること

見た目だけで判断せず、歯や顎のバランス、生活習慣までトータルに診てもらうことが大事です。

部分矯正を受けるなら知っておきたいチェックリスト

部分矯正を考えているなら、次の点をしっかり確認しましょう。

不正咬合がないか?
 → かみ合わせに大きな問題があると部分矯正では対応できない場合があります。

歯周病の有無をチェックしたか?
 → 歯を動かす前に、歯ぐきの健康状態をしっかり確認することが大切です。

歯磨きがしっかりできているか?
 → 歯垢がたまりやすい状態のまま矯正すると、むし歯や歯周病のリスクが高まります。

治療後の保定について説明があったか?
 → 矯正後に歯を固定する「リテーナー」の重要性を理解しておく必要があります。

治療を急ぎすぎていないか?
 → 「早く終わらせたい」「安く済ませたい」気持ちに流されていませんか?

これらの項目をしっかりチェックすることで、治療後のトラブルを防ぎ、納得できる治療選びにつながります。

まとめ

後悔しない治療選びのために

部分矯正は、正しく使えば便利な選択肢のひとつですが、全ての患者さんにおすすめできるわけではありません。特に「かみ合わせのズレがある」「全体的に不正咬合がある」場合は、部分矯正では十分な結果が得られない可能性があります。

歯科医院では、患者さん一人ひとりの状態に合わせて、最適な治療方法を提案しています。部分矯正が気になる場合も、まずはしっかりと診断を受け、メリットとデメリットを理解したうえで判断しましょう。

この記事の監修者

医療法人真摯会
理事長 歯科医師 総院長
松本正洋
クローバー歯科、まつもと歯科 総院長。国立長崎大学歯学部卒業。1989年歯科医師免許取得。1998年医療法人真摯会設立。矯正歯科の認定多数。日本抗加齢医学会 認定医。

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