大阪矯正歯科グループ 歯科医師 松本 正洋

「マウスピース矯正をしているのに、歯が動いていない気がする…」そんな不安はありませんか?

多くの場合は「まったく動いていない」のではなく、計画と実際の歯の動きにズレが生じている状態です。原因を正しく見極めれば、軌道修正は可能です。

この記事はこんな方に向いています

  • マウスピース矯正中で、効果に不安を感じている方
  • 予定より治療が長引いていると感じている方
  • 再スキャンや追加アライナーを提案されて戸惑っている方

この記事を読むとわかること

  1. 歯が動かないように感じる主な5つの原因
  2. 治療計画がズレる仕組み
  3. 修正方法と予防のポイント
  4. 医院選びや通院の重要性

歯の移動は、見えないレベルで静かに進みます。焦らず、しかし放置せず。冷静に原因を見ていきましょう。

 

治療中に歯が動いていないと感じる時、本当に歯は動いていないのですか?

治療中に歯が動いていないと感じる時、本当に歯は動いていないのですか?【図解】治療中に歯が動いていないと感じる時、本当に歯は動いていないのですか?

矯正治療中に歯が「動いていない」と感じる場合でも、実際にはわずかに動いていることが多いです。ただし、シミュレーション通りに動いていないケースでは、治療計画とのズレが生じます。

動いていないのではなく、「計画通りに動いていない」可能性が高いです。

マウスピース矯正は、事前の3Dシミュレーションに基づいて設計されます。しかし歯の動きは生体反応です。コンピューター上の理想的な動きと、実際の口腔内での反応には差が出ることがあります。

たとえば次のような状況です。

  • 前歯は動いているが、奥歯の動きが弱い
  • 回転させたい歯が途中で止まっている
  • 噛み合わせの変化が予定より遅い

このような場合、「動いていない」のではなく、「動きが追いついていない」状態と考える方が正確です。

歯は骨の中で少しずつ移動します。目で見える変化には時間差があります。その結果、不安が先に立ってしまうことも少なくありません。

歯の動きと見た目の変化

歯の動きは目で見える変化だけで判断できるものではありません。実際の変化と「動いていない」と感じる理由を整理すると、次のようになります。

状態 実際の歯の動き 見た目の変化 患者さんの感じ方
初期段階 骨の中で微細に移動 ほぼ変化なし 動いていない気がする
中期段階 傾きや回転が進行 少しずつ変化 まだ足りないと感じる
後期段階 咬み合わせ調整中 大きな変化は少ない 停滞していると感じる

歯の移動は段階的に進みます。目で見える変化が少ない時期でも、内部では変化が起きていることが多いのです。

装着時間は本当に守れていますか?

マウスピース矯正は1日20〜22時間の装着が基本です。数時間のズレが積み重なると、歯の動きに大きな影響が出ます。

装着時間の不足は、最も多いズレの原因です。

装着時間が足りないと、歯にかかる持続的な力が不足します。

  1. 食後にすぐ装着せず、数時間空いてしまう
  2. 仕事中や外出時に外したままにしてしまう
  3. 就寝前に装着を忘れてしまう

これらは「少しくらいなら」と思いがちですが、矯正は累積効果です。1日2時間の不足が1週間続けば、14時間分の力が不足します。

その結果、

  • アライナーが浮く
  • 次のステージがはまらない
  • 予定通りに交換できない

という流れになります。

ここで重要なのは、「できていない自分を責める」ことではなく、「どうすれば習慣化できるか」を考えることです。生活リズムに組み込める仕組みづくりが成功の鍵になります。

1日の装着時間と治療への影響

装着時間の違いは、治療の進み方に直接影響します。どのくらい差が出るのか、目安をまとめました。

1日の装着時間 力の持続性 治療への影響 計画とのズレ
22時間以上 安定 予定通り進みやすい 少ない
20時間前後 やや不足 わずかな遅れが出ることも 軽度
18時間以下 不十分 アライナーが浮く可能性 大きくなる

矯正は「毎日の積み重ね」です。わずかな時間差が、数週間後に目に見える差となって現れます。

アライナーはしっかり適合していますか?

アライナーが歯に密着していないと、正しい力が伝わりません。浮きやズレは要注意です。

浮いているアライナーは効果が半減します。

確認してほしいポイントは次の通りです。

  1. 歯とマウスピースの間に隙間がないか
  2. 奥歯まできちんと入っているか
  3. チューイーを使用しているか

チューイーはアライナーを密着させるための補助具です。軽視されがちですが、力の伝達を安定させる重要な役割があります。

また、歯垢や汚れが付着していると密着が悪くなります。毎日の歯磨きとアライナー洗浄は、見た目以上に重要です。

小さな浮きが積み重なると、計画とのズレが広がります。「なんとなくはまっている」ではなく、「完全にフィットしている」状態を目指しましょう。

アライナーの適合状態によって起こりやすい問題

アライナーの適合状態によって、力の伝わり方は変わります。代表的な状態を整理すると次の通りです。

適合状態 力の伝達 起こりやすい問題 対処法
完全密着 均一に伝わる 問題なし 継続
軽度の浮き 一部弱い 動きが遅れる チューイー使用
明らかな隙間 不十分 次がはまらない 早めに受診

浮きは小さく見えても影響は大きくなります。違和感を覚えたら、早めに相談することが重要です。

難しい歯の動きが含まれていませんか?

歯の移動には得意・不得意があります。特に回転や大きな移動、根の移動は難易度が高く、計画通りに進まないことがあります。

歯の動きには難易度差があります。

特に難しい動きは次のようなものです。

  1. 犬歯の大きな回転
  2. 奥歯の圧下(沈み込み)
  3. 根の傾きを伴う移動
  4. 抜歯症例でのスペース閉鎖

これらはワイヤー矯正の方が得意とされる動きです。

マウスピース矯正でも可能ですが、アタッチメント(歯に付ける小さな突起)やゴムを併用するなど、補助的な処置が必要になることがあります。

その結果、途中で再スキャンを行い、計画を再設計するケースもあります。これは失敗ではなく、より精密に合わせ直すための工程です。

歯の動きとアライナーのずれやすさ

歯の動きには難易度があります。どの動きがズレを起こしやすいのか整理してみましょう。

歯の動き 難易度 ズレやすさ 備考
軽い傾斜移動 低い 少ない 比較的安定
小さな回転 中程度 ややある アタッチメント重要
大きな回転 高い 高い 再設計が必要になることも
抜歯スペース閉鎖 高い 高い 管理力が重要

難易度が高い動きほど、途中修正は珍しくありません。再設計は失敗ではなく、精度を高めるための工程です。

医院側の診断や管理に問題はありませんか?

マウスピース矯正は設計力と管理力が重要です。経験不足や診断の甘さがあると、ズレが大きくなることがあります。

設計の精度とフォロー体制が結果を左右します。

確認すべきポイントは次の通りです。

  1. 定期的なチェックが行われているか
  2. 計画の修正が適切に提案されているか
  3. 不正咬合全体を見ているか

歯並びは見た目だけでなく、噛み合わせとの調和が重要です。単純な前歯の整列だけを目標にすると、後で咬合の問題が出ることもあります。

また、シミュレーションをそのまま信じすぎるのも危険です。生体反応を見ながら柔軟に調整する姿勢が必要です。

医院選びは「価格」より「管理力」で判断すべきです。これは長期的な満足度に直結します。

治療計画がズレた場合、どうすればいい?

ズレが生じた場合の主な対応は次の通りです。

  1. 再スキャンして再設計する
  2. 交換間隔を延ばす
  3. 補助装置を追加する
  4. ワイヤーとの併用を検討する

多くの場合、修正は可能です。放置せず、早めに相談することが最善策です。

Q&A

マウスピース矯正で本当に歯が動いていないことはありますか?

完全に動いていないケースは多くありません。多くは「計画通りに動いていない」状態です。装着時間や適合状態を確認し、必要に応じて再設計することで修正可能なことがほとんどです。

アライナーが浮いている場合、そのまま使い続けても大丈夫ですか?

軽度の浮きでも放置はおすすめできません。力が正しく伝わらず、計画とのズレが拡大する可能性があります。チューイーの使用や早めの受診が大切です。

治療計画がズレたら、最初からやり直しになりますか?

最初からやり直しになることはほとんどありません。再スキャンを行い、現在の歯並びに合わせて再設計することで、多くの場合は軌道修正が可能です。

装着時間が少し足りないだけでも影響はありますか?

はい、積み重なると影響が出ます。1日1〜2時間の不足でも、数週間単位では大きな差になります。矯正は「持続的な力」が前提の治療です。

マウスピース矯正が向いていないケースもありますか?

あります。大きな歯の回転や抜歯を伴う不正咬合などは難易度が高く、ワイヤー矯正の方が適している場合もあります。診断力と治療計画の精度が重要です。

まとめ

マウスピース矯正で歯が動かないと感じると、不安になります。しかし原因の多くは、装着時間・適合・難易度・管理体制といった具体的な要素にあります。

大切なのは、
「動いていない」と決めつけることではなく、
「なぜズレたのか」を冷静に分析することです。

歯は生体です。計画は地図であって、現実の地形とは多少異なります。そのズレを修正しながら進むことが、成功への現実的な道です。

焦らず、しかし主体的に。治療は医院任せではなく、患者さんと医院の共同作業です。その姿勢こそが、理想の歯並びへと近づく最大のポイントになります。