部分矯正と言えば前歯をきれいに整えることに特化した方法ですが「奥歯だけを部分的に移動させたい」というご相談もあります。虫歯や歯周病で奥歯を失った方で、歯を抜いた後のスペースを奥歯を前に移動させる部分的な矯正で埋めたいというご希望です。
部分矯正という名前からして、部分的に簡単に歯を移動させる感じがしますが、頑丈な奥歯も動かすことが可能なのでしょうか?果たして奥歯だけを動かすことが可能なのかについてご説明いたしますね。
目次
部分矯正とは?
部分矯正は、MTM(正式名称:Minor Tooth Movementと)と専門的に呼ばれる歯列の治療法です。歯科医院によってはプチ矯正、前歯矯正とも呼ばれています。
前歯が少しすきっ歯になっている方は、部分矯正で短期間できれいに治すことが出来ます。上の歯1本だけが後ろに引っ込んでしまっているので、その部分だけを綺麗に治したいというご希望も多いです。何本位が部分矯正で可能かと聞かれることがよくあります。部分か全体かによって、費用や治療期間は大きく異なりますので、どちらの適用になるかは重要です。
部分矯正と全体矯正の違い
全体矯正 | 部分矯正 | |
---|---|---|
費用 | 75~100万円(+税) | 20万~50万円(+税) |
治療期間 | 約2~3年 | 半年~1年 |
痛み | あり | あり |
噛み合わせ | 治る | 基本的には治らない |
抜歯 | 抜歯を選択できる | 抜歯しない |
治療の種類 | 噛み合わせの治療 | 見た目を良くする |
部分矯正で治療可能か、それとも全体矯正になるのかは、患者さんのご希望をお伺いした上で、担当医の診断による最適な治療方法をご説明し、それぞれのメリットやデメリットをしっかり話し合いながら決定します。
歯の重なりが大きかったり、歯を大きく動かさなければならないような歯列の場合は、患者さんのご希望に添えないケースもあります。
不正咬合の程度によって部分矯正か全体矯正か決まるの?
歯の重なり(叢生)や、出っ歯(前突)、すきっ歯(正中離開)が、いずれも軽度であれば、部分矯正で治療できる可能性はあります。装置の選択肢としては、ワイヤーやインビザライン等で、それらを装着する事によって部分的に歯並びの治療を行う事は可能です。
ただし、八重歯が口腔内にあったり、受け口、オープンバイト(開咬)、ガミースマイル、噛み合わせに関わる(過蓋咬合など)症例のケースでは全体的な治療になります。基本的には、抜歯を伴うケースは、ほぼ全顎矯正で行います。
奥歯についての基礎知識
真ん中の歯を1番として数えると、奥歯とは6番、7番、8番の事を呼びます。専門的な名称で呼べば、第1大臼歯、第2大臼歯、第3大臼歯の事です。第1大臼歯は、6歳臼歯と呼ばれ6歳ごろに生えます。また、第2大臼歯は永久歯に生え変わる12歳ごろ、一般的には親知らずと呼ぶ第3大臼歯はだいたい18~22歳頃に生える方が多いです。
第1大臼歯の歯冠部という、目に見えている歯の部分は、男性の場合で上顎10.68mm、下顎で11.53mm、女性もおおよそ0.3mm程値が低いですが、大まかにはそのような大きさのものです。<参照先:J-STAGE「成人正常咬合者の歯,歯列,顎骨の形態変化」>
奥歯を部分矯正で移動出来るか?
では、お口の中で最も大きい歯と言われる奥歯(第1大臼歯)の部分矯正が可能かどうかご説明します。
患者様に奥歯の部分矯正が可能かと言われれば、「全顎矯正では可能ですが、部分矯正では難しいかもしれない」とお答えするケースが多いです。
奥歯を部分矯正で移動できない理由その1
何故奥歯は部分矯正の適用が出来なくて全顎の矯正となるのでしょうか。それは先ほどご紹介した通り、大臼歯の大きさによるスペースや、奥歯の歯根の形が鍵となります。
大臼歯の大きさはおおよそ1cmとご紹介しましたが、それを手前に動かすには、歯の動きを促すための固定源としてミニインプラント(アンカースクリュー)を使用する方法が必要となります。ミニインプラントを併用してのインプラント矯正は、主にワイヤーを使って歯全体を動かす場合のオプション的な治療との位置づけです。
また、奥歯の場所や向きが正しくない場合は、たいてい咬み合わせのトラブルも併発しているケースが多いです。

奥歯を部分矯正で移動できない理由その2
また、奥歯の歯根は3~4つに分かれていて湾曲しています。少し動かしにくい歯を動かす訳ですから、当然動かすために大きな力が必要で、痛みが伴いますし、かなりの時間もかかります。時間や治療期間を短くするということが部分矯正のメリットですが、奥歯の場合は前歯に比べて一番噛む負担がかかるため、かみ合わせも含めてきちんとした治療を行う必要があると考えます。部分矯正では完全な改善は出来ないという意味です。
以上の点から、上下左右ともに全体的に矯正をして、奥歯をしっかりと正しい位置へ導くというのがより良い方法だと考えます。
ただし、例外として奥歯が一本だけ歯列からずれて少しだけ内側に入っていたり、少しだけ捻れているような場合は、部分矯正が可能かもしれません。
まとめ
今回は「部分矯正で奥歯だけを移動することは可能ですか?」という事についてご説明いたしました。奥歯は見た目よりもかみ合わせが重要です。かみ合わせを整える為には部分矯正では対応出来ない場合が多いのですが、クリニックによって方針は様々です。
「どうしても部分矯正で奥歯のみ治したい、噛み合わせは気にしない」「治療費も比較的安いから、絶対に部分矯正で簡単に治したい」とおっしゃる方は、是非複数の医院を受診してセカンドオピニオンを求めましょう。
あなたに合った治療方針で行ってもらえるドクターがきっと見つかると思います。ただ、後戻りのリスクや、メンテナンス、年齢などや、院内の設備などもしっかりと確認し、予約の上、受診されることをおすすめします。