子どものうちにしかできない矯正はある?成長を利用する治療と開始時期を解説

執筆・監修:大阪矯正歯科グループ 歯科医師 松本 正洋

「子どものうちにしかできない矯正はありますか?」

あごの成長を利用して上下のあごのバランスを整える治療は、まだ成長途中の時期に行います。代表例は、上あごの成長不足が関係する受け口の治療で、一般的に低年齢が推奨されます。ただし、歯を動かす矯正や口・舌の癖への対応は、大人でも行えます。

「永久歯がそろうまで待っても大丈夫?」「もう小学校高学年だから遅い?」と迷う保護者の方もいらっしゃるでしょう。判断のポイントは年齢だけではなく、何を治す必要があり、あごの成長がどのくらい残っているかです。

この記事を読むとわかること

  1. 成長期に行う矯正と、大人でもできる矯正の違い
  2. 受け口や上あごの幅の問題で、早めに相談する理由
  3. 治療時期を年齢だけで決められない理由
  4. 口呼吸・舌の癖への対応と、相談時に確認したいこと

 

子どものうちにしかできない矯正とは、どのような治療ですか?


子どもの矯正の特徴は、歯の位置を整えるだけでなく、残っているあごの成長を利用して噛み合わせの改善を目指せることです。成長が終わった大人は、同じ方法であごの成長を誘導することはできません。一方、歯を動かす治療は子どもにも大人にも行えます。

成長期に限られるのは、あごの成長を利用する治療です。

たとえば、上あごが下あごに対して小さい、または後ろに位置している受け口では、上あごを前方へ誘導する治療を検討します。下あごが後ろに位置する出っ歯でも、成長段階に合わせた治療を検討する場合があります。ただし、どの治療も骨格を思いどおりに変えられるわけではありません。

子どもの矯正を考えるときは、装置の名前よりも「歯を動かすのか、成長に働きかけるのか」を確認すると目的がわかりやすくなります。

似た見た目の歯並びでも、必要な治療は異なります。
まずは、治療の役割を整理してみましょう。

治療の目的 子どもの場合 大人の場合
あごの成長を利用してバランスを整える 成長段階と症状が合えば検討できる 成長を誘導する同じ方法は使えない
歯の位置や傾きを整える 歯の生え替わりに合わせて行う 歯や歯周組織の状態に応じて行える
上あごの幅を改善する 骨の成熟状態に合った拡大方法を検討する 歯の移動、骨に支えを求める装置、手術の併用などを検討する
口や舌の使い方を整える 理解力や協力度に合わせて練習・指導を行う 必要に応じて練習・指導を行える

「子どもの矯正ならできること」と「子どもでなければできないこと」は、同じではありません。
歯並びの問題をすべて成長期に治す必要はなく、永久歯がそろってから整えるほうが適している場合もあります。
成長期の治療を行う意味があるかを、症状ごとに判断します。

子どもと大人の矯正で、治療の目的や進め方がどう違うのかは、大人の矯正と子どもの矯正の違いで詳しくご紹介しています。

受け口は、なぜ子どものうちに相談したほうがよいのですか?


受け口には、歯の傾きによるもの、噛むときに下あごが前へずれるもの、上下のあごの骨格が関係するものがあります。原因によっては、成長期に噛み合わせを整えたり、上あごを前方へ誘導したりする治療を検討できます。見た目だけで原因を決めず、早めに診断を受けることが大切です。

受け口は、成長を待つ前に原因を確認しましょう。

受け口とは、上の前歯より下の前歯が前に出て噛んでいる状態です。「下あごが大きいから」と思われがちですが、上あごの位置や歯の傾きが関係していることもあります。日本臨床矯正歯科医会も、歯の位置による受け口と骨格による受け口を区別し、早期からの治療計画の重要性を説明しています。

相談の目的は、すぐに装置を入れることとは限りません。
今の噛み合わせを改善する必要があるか、成長に働きかける治療が適しているかを見極めます。
受け口の主な原因と、確認する内容をまとめました。

受け口の原因 診察で確認すること 治療の考え方
前歯の位置・傾き どの歯が逆に噛んでいるか、歯を動かす余地があるか 歯の位置や傾きの改善を検討する
噛むときの下あごのずれ 歯の接触によって下あごが前へ誘導されていないか ずれを生む噛み合わせへの対応を検討する
上あごの成長不足・後方の位置 上下のあごの関係と、残っている成長 適応があれば上顎前方牽引などを検討する
下あごの大きさ・成長の影響 骨格の差、家族の傾向、経過による変化 成長を観察しながら長期的な治療計画を立てる

実際には、複数の原因が重なっていることもあります。
同じ受け口でも、同じ装置や開始年齢が適しているとは限りません。
「前歯が逆に噛んでいる」という情報から一歩進めて、原因まで確認することが治療選びにつながります。

上顎前方牽引装置は、上あごを前方へ誘導するための装置です。ムーシールドなどの装置もありますが、幼児期の受け口すべてに適しているわけではなく、遺伝性の受け口を確実に予防する装置ではありません。

早期治療をしても、その後の成長によって受け口が再び現れる場合があります。日本矯正歯科学会の診療ガイドラインでも、成長の予測には限界があり、成長期の治療後に外科的な矯正が必要となる場合が示されています。逆に、子どもの頃に治療しなかった人が全員手術になるわけでもありません。

受け口の原因や、年齢・症状に応じた治療方法については、受け口・反対咬合の原因と治療方法もご覧ください。

上あごの幅を広げる治療は、子どもしか受けられませんか?


上あごの幅を広げる治療そのものは、大人でも検討できます。ただし、骨が成熟する前と後では、適した方法や体への負担が異なります。成長期は上あごの中央の骨のつなぎ目に働きかける拡大を行いやすい場合がありますが、適応は年齢だけでは決まりません。

拡大は子ども限定ではありませんが、成長段階で方法が変わります。

上あごが狭く、奥歯の噛み合わせが左右で逆になっている場合などでは、幅の改善を検討します。急速拡大装置はその方法の一つで、上あごの中央にある「正中口蓋縫合」という骨のつなぎ目に力を加えます。つなぎ目に器具を差し込む処置ではありません。

また、「歯列を広げること」と「上あごの骨の幅を広げること」は区別が必要です。歯を外側へ動かすだけでよいのか、骨格の幅を改善する必要があるのかで、装置の選び方が変わります。

骨の成熟には個人差があるため、「12歳までなら必ずできる」「13歳からはできない」という区切り方は適切ではありません。成長が進んだ場合には、骨に支えを求める装置や、必要に応じて外科処置を併用する方法などを検討します。

早めに診察を受ける意味は、単に歯が並ぶ場所を増やすことだけではありません。奥歯の噛み合わせや、噛むときのあごのずれを確認し、その子に合った方法を選ぶことにもあります。

急速拡大装置を検討する際に知っておきたい特徴や注意点は、小児矯正の急速拡大装置のメリット・デメリットで解説しています。

何歳までに相談すれば、成長を利用する矯正に間に合いますか?


すべての治療に共通する締め切り年齢はありません。受け口やあごのずれが気になる場合は、乳歯の時期でも相談できます。特に気になる症状がなくても、前歯が永久歯へ生え替わる頃に噛み合わせを確認すると、その後の治療計画を考えやすくなります。

症状があれば年齢を待たずに相談し、治療時期は診断で決めます。

同じ学年でも、歯の生え替わりやあごの成長は同じではありません。診察では、歯の状態、顔やあごのバランス、成長の経過などを確認し、必要に応じて画像検査も用いて判断します。

保護者の方にとっては、年齢の目安があると相談しやすいでしょう。
ただし、以下は治療開始を一律に決める基準ではありません。
「その時期に何を確認するか」の目安としてご覧ください。

時期の目安 相談・確認したいこと 気をつけたい点
乳歯の時期 受け口、噛むときのあごのずれ、噛みにくさ 幼いほど必ず早く治るわけではない
前歯が生え替わる頃(おおむね6~8歳) 永久歯の噛み合わせ、上下のあごの関係、上あごの幅 相談しても、すぐ治療を始めるとは限らない
小学校中・高学年頃 残っている成長と、治療を始める目的 学年だけで「間に合う」「遅い」と判断しない
中学生以降 成長の残り方と、永久歯を整える治療の必要性 成長を利用できるかと、矯正できるかを分けて考える

この表の年齢を過ぎていても、矯正治療を諦める必要はありません。
成長を利用する方法が適さなくなっても、歯の移動など別の治療方法を検討できます。
現在のお口の状態でできることを確認するために相談しましょう。

特に、前歯が逆に噛む、噛む瞬間にあごが横へずれる、食べ物を噛み切りにくいといった様子があれば、「永久歯が全部そろってから」と決めずに歯科で確認することをおすすめします。

お子さんの矯正を相談する時期や、治療開始までの考え方については、子どもの矯正を始める時期の目安も参考にしてください。

口呼吸や舌の癖を治すのも、低年齢でなければできませんか?


口呼吸や舌の使い方への対応は、低年齢だけに限られるものではありません。成長中のお子さんでは、歯並びに関わる状態を早めに確認する意味があります。ただし、口が開いている原因や舌の状態を調べ、必要に応じて耳鼻咽喉科への相談や口の機能の練習を組み合わせます。

癖への対応は大人でも可能で、子どもでは原因を早めに確認します。

口呼吸は歯並びやあごの形と関連することがありますが、それだけで不正咬合が決まるわけではありません。「口が開いているから、必ず歯並びが悪くなる」と断定せず、鼻で呼吸しにくい理由がないかも確認します。

鼻づまりやいびきが続く場合

アレルギー性鼻炎など、鼻やのどの問題が関係することがあります。歯並びの相談とともに、耳鼻咽喉科などで呼吸の状態を確認することが必要な場合があります。

安静時に舌が前歯を押している場合

舌の普段の位置や、唇を閉じる力などを確認します。飲み込む瞬間の動きだけでなく、何もしていないときの状態も判断材料になります。

口や舌の練習を行う場合

口腔筋機能療法(MFT)などで、舌や唇の使い方を練習することがあります。お子さんの理解力に合わせ、続けられる内容を選びます。

大切なのは、お子さんに「口を閉じなさい」と繰り返すことより、閉じにくい理由を探すことです。鼻が詰まっていれば、本人が気をつけるだけでは改善しにくいでしょう。原因への対応と練習を分けて考えると、家庭で何を手伝えばよいかも明確になります。

プレオルソという装置を使う場合も、目的と適応の確認が必要です。装置をつければ骨格の問題まで必ず治る、将来の本格的な矯正が不要になる、と受け止めないようにしましょう。

口呼吸と歯並びの関係や、原因に応じた対応については、子どもの口呼吸が歯並びに与える影響と対策で詳しく解説しています。

早く始めれば、将来の矯正や手術を避けられますか?


早期治療で噛み合わせが改善しても、永久歯が生えそろった後の矯正が必要になることがあります。また、成長後に骨格の差が大きく残れば、手術を併用する治療を検討する場合もあります。早く始めること自体より、その時期に治療する目的が明確であることが大切です。

早期治療は、将来の追加治療が不要になる保証ではありません。

子どもの矯正は、成長期の噛み合わせなどに対応する「1期治療」と、永久歯を整える「2期治療」に分けて説明されることがあります。1期治療が終わっても、成長や生え替わりの確認は続きます。

保護者の方が知りたいのは、「始められるか」だけではなく「今始めることで、何が変わるか」ではないでしょうか。
相談時には、治療する場合と観察する場合の両方を確認しましょう。
次の質問を用意しておくと、説明を整理しやすくなります。

相談時の質問 確認したい内容
今の問題は歯ですか、あごの骨格ですか? 治療の対象と、成長を利用する必要性
今始める治療の目標は何ですか? 前歯の噛み合わせ、あごのずれ、骨格のバランスなど、今回改善を目指す点
今は待つ場合、何を観察しますか? 次回の診察時期と、治療開始を判断する変化
本人は毎日何をする必要がありますか? 装着時間、練習、清掃など、家庭で続ける内容
将来、追加の治療が必要になる可能性はありますか? 2期治療や手術の可能性、現時点で予測できることとできないこと

治療の目標がわかると、「装置を使っているから安心」という判断に偏りにくくなります。
経過観察を選ぶ場合も、確認する項目と次の診察時期が決まっていれば、必要な変化を追っていけます。
ご家庭で続けられるかも含めて、治療計画を相談しましょう。

早めの相談と、早めの治療開始は別の判断です。成長を見ながら待つほうが適している場合もあります。その理由を説明してもらうことが、納得して治療を選ぶための一歩になります。

成長期の治療と、永久歯が生えそろってからの治療の役割については、子どもの矯正の1期治療・2期治療をご覧ください。

子どもの矯正で、保護者が覚えておきたいことは何ですか?


成長期に限られるのは、あごの成長を利用する治療です。受け口やあごのずれが気になる場合には、永久歯がそろう前でも相談する意味があります。ただし、すべての子どもに早期治療が必要なわけではなく、大人になってからできる矯正もあります。

年齢だけで急がず、成長を利用する必要があるかを確認しましょう。

「今しかできない」と聞くと、すぐに決めなければと感じるかもしれません。まず知っておきたいのは、お子さんのどの問題を、何のために治療するのかです。受け口や噛むときのあごのずれがあれば早めに相談し、治療の必要性と適切な時期を確認してください。

大阪矯正歯科グループへのご相談でも、「今行う治療の目的」と「待つ場合に観察すること」をお尋ねください。お子さんの成長と生活に合った選択を考えていきましょう。

【動画】低年齢じゃないとできない矯正とは

まとめ

子どものうちにしかできない矯正の代表は、あごの成長を利用して噛み合わせの改善を目指す治療です。一方、歯を動かす矯正や口・舌の癖への対応は、大人でも行えます。

受け口や噛むときのあごのずれが気になる場合は、永久歯がそろう前でも相談しましょう。ただし、適切な開始時期には個人差があり、早く始めれば将来の矯正や手術を必ず避けられるわけではありません。

大切なのは、「何歳までに始めるか」だけでなく、**「今治療する目的は何か」「待つ場合は何を確認するか」**を知ることです。お子さんの成長とお口の状態に合った時期を、歯科医師と相談して決めていきましょう。

関連ページ:大阪矯正歯科グループの小児矯正

参考文献・情報源

※本記事は上記の情報源などを参考に、一般の方にわかりやすい内容となるよう編集・構成しています。